第6話 雌親が繁殖巣を離れる時間

 体が小さいカヤネズミは、高い熱産生をまかなうために、頻繁に採餌を行う必要があります。さらに、雌親は自分の体熱産生に必要な栄養に加えて乳生産のための養分を獲得しなければなりません。これだけでも大変な重労働なのに、不思議なことに多くの繁殖巣が植物群落の中高層につくられるため、採餌のための群落茎葉の登り降りにも多大なエネルギーを使います。
 カヤネズミの育仔期間中の採餌頻度に関する調査で、カメラの撮影位置の都合で、精度の高いデータは得られなかったものの、忙しい雌親の様子をうかがい知りことのできるデータが採れましたので紹介したいと思います。

 このカヤネズミは2017年1月8日2時過ぎに繁殖巣に入り、分娩し、8時過ぎに巣を出ました。正確な分娩時刻はわかりませんが、ここでは巣内滞在時間の中間である5時20分頃とします。雌親の採餌のための出巣時間帯を記録するため採餌器周辺の動画撮影を行いました。今回の調査では採餌に限定して記録することができなかったために、以下の図表に示したものは、雌親が出巣して給餌器周辺に滞在した時間のデータになります。滞在時間帯のほとんどは採餌をしていましたが、グルーミングをする時間帯が滞在時間帯の10%位と推測される日もありました。
 図1に雌親が繁殖巣を出て給餌器付近に滞在していた時間帯を分娩前日から分娩後13日までの7日を抜き出して図示してみました。また、表1に分娩前日から分娩後13日目までの毎日24時間の合計給餌器付近滞在時間を示しました。

図1. 雌親が繁殖巣を出て給餌器付近に滞在していた時間帯(カラーの太線).推定分娩時刻を分娩0日目0時として示している。

表1. 分娩前日から分娩後13日目までの給餌器付近滞在時間.

 幼獣の成長とともに巣外にでる時間帯は次第に長くなり、分娩後10日目に合計8時間(1日の30%)になりました。この観察は繁殖巣と餌場とがきわめて近い条件のものですから、幼獣の頭数や野外では餌場までの距離によると思いますが、1日の半分近くは巣外に出ている可能性もありそうです。そうだとすれば、留守番する幼獣の保温効果を高めることが必要であり、そのためにはがその効果が高い育児床をもつ球巣がつくられることに重要な意味を持っているように思われます。また、長時間哺乳できない幼獣への栄養供給に特別の仕組みが進化した可能性もあります。吐き戻しがその役割を果たす行動なのかもしれません。
 分娩後12日を過ぎると、雌親は短時間で巣の出入りを繰り返す傾向がでてきます。今回は分娩後13日2時間で幼獣が給餌器付近に出現しました。雌親の行動は採餌だけではなく幼獣の出巣を促す意味があるのかもしれません。幼獣は3頭確認されました。

13日齢の幼獣が給餌器付近に現れました。後から雌親も映ります。(21秒、7.3MB)

(2016年 1月25日)

←第5話    最終話→

草地調査

前の記事

2015年第3回草地調査
草地調査

次の記事

2016年第1回草地調査