久住高原の草地の概要 
 久住高原では1970年代中頃から入会原野の大規模草地開発事業が実施されました。大規模草地開発事業で造成された多くの草地は、オーチャードグラス(Og)およびトールフェスク(Tf)を主とした寒地型牧草の5種混播です。採草地は通常年3回刈り(5月下旬、7月中旬、9月下旬)で、ロールベールサイレージあるいは梱包乾草の調製が行われています。
 この地域の農家は稲作を基本とし、畑作、シイタケに比較的少頭数の肉用繁殖牛飼養を加えた小規模複合経営であり、草地の多くは地域集落の入会慣行の延長線上で設立された農業法人により維持管理されています。
 気象は、年平均気温12.9℃、旬平均日最高気温は7月下旬~8月上旬が最も高く29℃、旬平均日最低気温は12月上旬~3月上旬で氷点下であり、6月上旬から7月中旬が梅雨期で年降水量は2800mm以上となります(気象庁アメダス阿蘇乙姫)。黒ボク土地帯で、酸性が強く、リン酸吸収係数が2500以上の土壌が広く存在しています。

集落から久住高原を望む
集落から久住高原を望む

開発後、草地(特に採草地)で起こった諸問題

①Ogの密度低下
 多雨地帯であるため刈取り遅延・不能の年があること、夏季は30℃を越す日も多く夏枯れが発生することなどから、個体密度の低下と雑草の侵入が顕著な草地がほとんどです。

②イタリアンライグラス(Ir)-夏型1年生イネ科草交代草地の成立
 造成草地の約60%(増田ら 1994, 田中ら 2005)でIrと夏型1年生イネ科草(メヒシバ、イヌビエ)とが自然下種により交代する草地が成立しています。当該地域の気象条件、刈取り時期などがIrの結実と種子の発芽に適した環境をもたらしたこと、初期成長における種間競争でIrが有利であること、Ogの密度低下で生じる株間空間を占めることなどが成立要因です。この草地植生を地域の自然・社会環境に対応したものとして、その飼料特性を生かした使い方や施肥量の年間配分の調整と節約などにより積極的に利用していくという方針をとっています。

採草作業
採草作業

③更新草地の急速なIr優占化
 Og主体の草地に戻すために草地更新を行う牧場もありますが、更新翌年には再びIr優占となる例が多く認められます。Irを抑制する更新法・利用管理法としては、更新時にIrを発芽させ、除草剤処理する方法や最終刈取りを10月中旬以降にすることなどが有効ですが、確実な方法は未だ確立していません。

④大規模な裸地発生
 2004年1番草で大規模な裸地が発生しました。裸地部分では前年秋のIrの発芽不良・初期成長障害が起こったことおよび土壌酸性化に関連する諸要因が原因であることが明らかとなっています。急激な土壌酸性化の原因として、施用肥料の不適切な選択および非アロフェン質土の存在が明らかとされました(久保寺ら 2013)。その対策として鶏糞焼却灰、堆厩肥などの活用が始まっています。

⑤草地更新における最近の傾向
 Og主体草地を目的に更新したいくつかの草地でOg個体のP欠乏による成育障害、枯死および細溝侵食の発生が認められました。これらはAl害による根系の発達障害が原因であろうと推察しています。これらの草地の草種構成は、Og減少、Tf増加、ベルベットグラス増加という経過をたどり、Al耐性の草種間差が関与しているようで、Al害の軽減のために堆肥の施用を推奨しています。

板切牧野から久住高原
山麓の草原

⑥有畜農家が減少した牧場の利用率の低下、利用放棄
 有畜農家の減少が著しく広い草地の維持管理を少数の農家で行うことが困難となっています。また、里地における飼料イネ栽培に労力を向けるために高原の草資源利用に対する熱意、必要性が低下しています。少ない労力と経費で草地を維持する方策に取り組む必要があると考えています。

「牛にとっての離乳食を考える-黒毛和種子牛の哺乳・育成技術のあり方について-」
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