2022年の草地調査から:草地の状況と管理利用上の注意点

 2022年の草地調査の結果から今後の草地利用管理において注意が必要な主な点をまとめてみました。

(1)イタリアンライグラス主体草地における堆厩肥投入によって起こる植生変化とその対応について
(2)チカラシバなどの多年生イネ科草が増加している採草地について
(3)オーチャードグラスなどの多年生牧草維持のためには夏の窒素施肥を抑制することも有効
(4)ワルナスビ対策について
(5)1,2番草で(自生)イタリアンライグラスが主体となる草地における越夏性イタリアンライグラスの割合について

(1)イタリアンライグラス主体草地における堆厩肥投入によって起こる植生変化とその対応について
 イタリアンライグラス主体草地で堆厩肥を利用する草地の場合、多くは3番草刈取後に投入されています。この時期は翌春の1番草の主体になるイタリアンライグラスが発芽・成長を始める時期で、草地に堆肥が被ると発芽不能、成育阻害を受ける個体が出るために、翌春1番草がムラの多い状態になります。これを避けるために春先の投入や2番草を刈ったあとの投入も考えられます。しかし、この場合にはその後の収穫草に堆肥クズが混入することがあり、飼料として使いにくい問題が生じることもあります。1番草での堆肥の肥料効果を期待すると、晩秋から初冬に施用を行うことになりますので、3番草刈取後の投入によって発生する草地のムラは避けられないことになります。イタリアンライグラス主体草地の場合には、新しい種子が毎年供給されるため、このムラは翌年の1番草では解消することにはなりますが、堆厩肥を毎年続ける場合には、また新たなムラが生じることにはなりそうです。
 完熟でない堆厩肥利用の場合は、1番草の倒伏の可能性と硝酸態窒素含量には注意が必要です。

 久住の草地で起こりやすい土壌酸性害を軽減するための堆厩肥施用の重要性を考えると、発生する成育ムラは容認せざるを得ないことになりますが、毎年の堆厩肥の施用量を少なめにする、または堆厩肥と石灰(苦土石灰)施用を隔年で行うなどの対策を考えることも可能です。

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(2)チカラシバなどの多年生イネ科草が増加している採草地について
 牧草の割合が低下し、様々なイネ科の野草の割合が増加している草地で、チカラシバの侵入と増加が認められます。チカラシバは多量の種子を散布し、急速に個体数を増やす能力が高い草種ですが、他の植物によって光が遮られる状態では成長が著しく抑えられるために、主に放牧地で拡がりやすく採草地で優占する例はほとんどないとされています。したがって、チカラシバが増加している採草地では、チカラシバの5月後半からの発芽あるいは株からの萌芽を抑えることができる草が育っていないと思われます。今年チカラシバの増加が確認された草地の場合、牧草の割合が低く、春に成長し夏には勢いが弱くなるイネ科の野草の割合が増加しています。チカラシバとの競争に勝てるような草がほとんどないために、今後もチカラシバの増加は防ぐことができないと予想されます。刈取りなどの通常の管理ではチカラシバを抑えることは難しく、草地更新で対応せざるをえません。しかし、更新やその後の管理などに十分な労力や経費をかけることが困難な草地では、ススキなどの野草利用に切り替えるか、チカラシバを飼料として利用していくことを考えることになります。チカラシバを飼料にする場合、長く固い種子の芒(のぎ)、出穂茎が固く採食性が落ちることなどが問題となります。6月末までの刈取りでは、出穂は認められませんので、1番草は十分飼料として利用できます。2回目の刈取りは種子が落ちる、あるいは収穫作業で脱落する時期(10月?)を選び、ロールや乾草に種子ができるだけ混じらないようにするという使い方も検討してみる必要があると思います。

 自生リードカナリーグラス(クサヨシ)やベルベットグラスが優勢となっている草地では、安定した植生が維持されていますので、これまでのように年2回の刈取りを確実に継続することで安定した収穫ができると思われます。もし、草地更新が計画されるとすれば、管理の実態に合わせて、ある程度粗放な管理が可能なリードカナリーグラスのような牧草を導入することも考える必要があると思います。

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堆肥投入や施肥により2番草で雑草が増加したオーチャードグラス主体草地

(3)オーチャードグラスなどの多年生牧草維持のためには夏の窒素施肥を抑制することも有効
 草地に生えるオーチャードグラスなどの多年生牧草は、地中深く根を張り、土壌中に蓄積された肥料成分を吸い上げ利用することができる能力をもっています(土壌地力を有効利用する)。草地の雑草である1年生植物の多くは、土壌表層に根を張り、施用された肥料に対する反応が高い性質をもっています。草地では牧草と雑草とは常に激しい成育競争をしています。肥料が散布されると、播かれた肥料成分をめぐって吸収競争が起こります。草地の肥料は土壌の表面に施用しますので、肥料の吸収利用という点では、1年生の植物は多年生の牧草に比べ有利です。したがって、施肥量が多いほど、牧草と雑草との競争で雑草が次第に優勢となる傾向が強くなります。

 夏型のメヒシバやイヌビエ、広葉雑草などが増加する場合には、施肥の調整によりオーチャードグラスの維持効果が期待できます。初夏の刈取り(2番刈り)後の窒素施肥を少なくし、夏型雑草の成長を抑制するとともに、窒素多給によるオーチャードグラスの夏の成育減退(夏枯れ)を防ぐことがねらいです。

 イタリアンライグラスが次第に増加しているオーチャードグラス優占草地でも、施肥はイタリアンライグラスに有利に働く傾向が見られます。イタリアンライグラスが増加している草地でオーチャードグラス優占を維持するためには、施肥量を極端に抑える方法もありますが、実用的ではありません。したがって、最終刈取りを10月に遅くすることで、イタリアンライグラスの発芽数を少なくすることが有効です。これはイタリアンライグラス以外の春に成長する雑草の抑制にも効果的です。これらの草地維持管理を行う場合には、イタリアンライグラスの割合を観察して、イタリアンライグラスが減少した後にどのような草が入ってくる可能性があるか、収量への影響はどうかなどを慎重に検討する必要があります。オーチャードグラスの割合を維持しようとする利用・管理から、イタリアンライグラスで収量を確保する利用・管理法へ速やかに切り替えることも必要な対応になる時期が来ることになります。 また、株化が著しい草地の場合も、1年生の夏型雑草を抑えた後に株間に侵入する可能性のある多年生の草(ベルベットグラス、ヌカボ類、クサヨシ、エゾノギシギシ、など)の状態に注意する必要があります。

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(4)ワルナスビ対策について

防除方法とその効果について
〇草地植物の全面的枯殺による更新
 更新直後のワルナスビ防除効果は確実ですが、地上部は枯れても根系や種子で生き延び翌年以降成長してくる可能性は残ります。更新前に種子を落とさせない時期の作業開始が必要ですし、前年までに落ちた種子が土壌中で休眠している可能性がないかを既往の報告等で確認する必要があります。種子からの発芽や萌芽に注意し、確認された場合には、速やかに薬剤処理を実施することも必要です。

〇スーダングラスなどの背の高い草(高茎植物)の栽培
 春に耕起し、スーダングラスなどの背の高い草を密度高く播種し、光を遮ることによりワルナスビの発芽・成長を抑制します。草地全面を確実に覆うことは実際には困難で、部分的には生き延びる個体もあると想定されるため、2,3年栽培を繰り返す必要があります。

 実施上で想定される問題としては、高茎植物を収穫・調製できる収穫作業機械を準備する必要があることと、更新と同様に、耕起によってワルナスビ根茎が草地全面に散布される可能性があるため、確実な防除効果を上げる必要があること、および種子休眠による生き残り個体が発生する可能性を検証しておく必要があります。

〇牧草による被圧を用いた抑圧・防除
 ワルナスビが7月中旬頃に結実するとすれば、その前まで被陰を続け、結実させずに刈り取ることを目標にします。全ての個体を速効で防除・抑制できることは期待できませんが、長期的にワルナスビの成長を抑制し、草地内で拡大させないことをねらうものです。管理、収穫作業もこれまでとできるだけ大きく変わらない方法を探ることを考えます。

 6月に根茎からの萌芽、種子発芽が起こるとすると、この時期に地表をできるだけ牧草が覆う様な管理、利用法を採用します。このためには、①1番刈りを早め(5月中旬まで?)、追肥をやや多くし、2番草を早く大きく育て、6月いっぱいは地表をできるだけ覆うような状態にする、②1番草を6月いっぱい伸ばしたままおき、7月に収穫する、という方法が考えられ、ワルナスビの被圧という点では②の効果が大きいと思われます。しかし、収穫草はかなり栄養価が落ちることおよび牧草の株化が進み、株間が空くことが予想されます。①の実施を考える場合には、秋の石灰やリン酸に重点を置いたお礼肥あるいは堆厩肥散布、および春肥を確実に施用することが必要と思われます。

 ①、②いずれの場合も7月初めの採草後、次の開花・結実は9月中旬と想定されますが、この時期を確認する必要があります。その時期前に収穫し種子を落とさせないような収穫作業が可能かどうかはわかっていませんが、それが困難であれば、7月の刈取り後、再生したワルナスビに対する除草剤散布を考えることも必要になります。
 このような管理と利用をしばらく続けて、ワルナスビ個体数の変動を観察することになります。

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(5)1,2番草で(自生)イタリアンライグラスが主体となる草地における越夏性イタリアンライグラスの割合について
 1番草と2番草がイタリアンライグラスになる草地の場合、そのイタリアンライグラスは、2回目(7月)の刈取り後には再生が不良となり枯死する個体と3番草でも成長が続き夏を越して翌年も収穫できる個体(越夏性)とが混じっています。越夏性イタリアンライグラスは、2,3番草の栄養価を高める効果や、株として冬を越しますので翌春の成長も早く1番草収量にもプラスの効果が期待され、その割合が高くなることを望む牧場もあるかもしれません。しかし、越夏できるイタリアンライグラスの割合は、草地の標高や年ごとの温度や降水量などの気象、さらには2番刈りの時期や施肥によって影響を受けます。また、草地に自生・成長しているイタリアンライグラスは、非常に多様な遺伝的特徴をもった個体で構成されています。したがって、越夏性イタリアンライグラスの割合は、夏の成育条件に耐え生存し続ける遺伝的能力(遺伝的特性)をもつ個体種子が前年の草地に散布され発芽・成長する機会をもったかどうかによって大きな影響を受けます。言い換えると、前年までの草地管理によって、越夏性イタリアンライグラスに有利な選抜が起こっていたかが大きな要因となります。

年によっては3番草で夏を越したイタリアンライグラスの出穂が多く見られる(2021年)

 選抜効果をもつ具体的な草地管理要因としては、2番刈りの時期(高温期になる前の早刈り)、2番刈り後の施肥(窒素多施肥は夏枯れ発生)などが報告されていますが、久住地域の自生イタリアライグラス草地における越夏性イタリアンライグラスの割合に対するこれらの効果は十分には検討されていません。越夏性イタリアンライグラス市販品種の栽培試験は報告されていますが、これらの品種の草地生存年数は短く(2~3年)、播き直しを繰り返して草地を維持する必要があります。異常気象が頻発し、毎年の気象条件が大きく変動するために、特定の品種や遺伝的特性を維持し、有利にするための管理(例えば2番草の早刈り)を毎年継続することは困難です。

 草地管理の目標としては、安定した草地生産(永続性)を最も重視したいと思います。久住地域の自生イタリアンライグラス主体草地の特徴は、成育するイタリアンライグラスの遺伝的特徴が非常に多様だという点です。種子が休眠して高温の夏を越す性質、梅雨明けの早晩により刈取時期が大きく変動しても種子を落とすことができる特性や遺伝的多様性など、毎年の気象や草地管理が変動してもそれに適応した性質をもつイタリアンライグラスが成育し、毎年安定した生産を続けることができています。越夏性イタリアンライグラスという特定の性質をもつ個体の割合を増やすことを特別に重視した管理法は、この地域の高温多雨という気候的特徴では実施が困難な上に、可能であっても草地の安定性を損なう結果をもたらすことになりかねません。

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