2017年第1回草地調査
昨年の秋以降の気象条件は、9月後半から10月始めにかけて不順な天気が続き、10月初旬には1時間30mm以上の大雨もありました。この気象条件の特徴が2017年1番草の成育にどのような影響を及ぼしているかを考えてみます。
例年の3番草収穫作業(当年の最終刈り取り)は、ほとんどの牧野で9月末に行われますが、昨年は10月中旬にやっと収穫作業が実施できた牧野が多かったようです。今年の1番草の成育状況をみて、昨年の3番草の刈り取り遅れの影響と考えられる点をまとめてみました。各牧野の昨年の刈り取り実施経過と今年の1番草の成育状況とを考え合わせて、今後の草地管理の参考にしてください。
1)昨年秋の刈り遅れの影響
(1) 例年、1番草はイタリアンライグラスで収穫している草地昨年3番草の刈り取りが10月中旬となった草地では、イタリアンの個体密度は十分あるようですが、発芽が遅くなった分、今年春の成長のスタートが遅れています。例年1番草を早めに刈る草地ではやや収穫量が下がることになりますが、この影響は5月中旬頃まででその後の天候が順調であれば収穫量には大きな影響はないと考えています。なお、3番草の刈り取り時期が10月中旬以降になった場合は、イタリアンの種子は気温の下降で発芽できないあるいは、初霜や低温の影響で枯死し、密度が低下してしまい、翌春の1番草の収穫量を減少させます。
*参考のために、以下に未だ十分には確認できていないので今後の草地調査で注目したい点も記しておきます。
〇今年の草地のイタリアンは晩生系の割合が増えているのではないか-
イタリアンの発芽時期が10月中旬以降となった草地では、出穂時期が遅い個体(晩生系)の割合が高くなっている印象を持っています。これは地面に落ちたイタリアン種子が夏を越して昨年のように晩秋まで種子のままで長く休眠することができる性質と出穂が遅い形質とが関連する可能性があること、また、高標高の草地では越夏性のイタリアンが10月中旬まで成育すると結実し、発芽種子における晩生系イタリアンの割合が増えることなどが考えられるためです。
〇3番草の刈り取り時期が翌秋のイヌビエ、メヒシバの割合に影響する可能性-
イタリアン主体草地の場合、3番草はメヒシバ、イヌビエ、エノコログサが主体となりますが、3番草の構成草の種類がどのような要因によって決まるかはまだ、十分明らかにできていません。一つは、夏型草種が一斉に発芽する2番草の刈り取り時期の早晩の影響がこれら3草種の発芽に異なる影響を及ぼすことが考えられます。さらに、3番草の刈り取り時期の早晩がこれら草種の種子を落とす量や完熟度などの違いに影響して、翌年の草種の割合が変動する可能性も想定されます。今年の3番草でイヌビエが増えるかどうかに注目しています。
(2) オーチャードグラスの割合が多い草地、オーチャードグラスが残っている草地では
今年はオーチャードの割合が増えている、あるいは株が目立つという印象があります。調査データとしても例年よりオーチャードグラスの割合が高い傾向が出ています。これは、例年は晩秋から早春にかけて発芽したイタリアンとの競争で成長の早いイタリアンにより被圧され、肥料分を奪われるなどの影響を受けるためにオーチャードがイタリアンより劣勢になりますが、今年は昨年の3番草刈り取りが遅れた(草地によっては3回目の刈り取りをやらなかった)ことがイタリアンの勢いを落とし、オーチャードに有利に経過しているからです。
今年の1番草の成育経過をみると、オーチャードの成長と密度を維持するためには、共存するイタリアンの勢いを落とすことが重要であり、そのための管理法として、3番草の刈り取り時期を遅らせることが有効であることがわかります。このことは実験的にも確かめていますので、オーチャードグラス主体草地を維持するための管理法としては10月中・下旬刈り取りが実施できる営農体系の検討が望まれます。
2)2016年秋更新の草地の状況
最近の更新草地で発生した細溝侵食と同様の状況が各所に見られます。昨秋の更新草地の場合には、播種後1ヶ月以内に発生した豪雨が表土侵食の主要な原因とみることができます。一度形成された細溝は梅雨の時期などの大雨で、更に大きく侵食が進む恐れがあります。土嚢で細溝の流水を弱める対策、埋め戻すなどの対策が必要です。
天候の影響が主な原因といえるとしても、最近の更新草地の傾向として、播種牧草の発芽後の成育、特に根張りが不十分で、流水や霜柱で根が抜けたり切られたりする現象が頻発しています。発芽した牧草が根を張り、表土をしっかり掴み、土壌養分を十分吸収できるような土壌改良が十分にはできていない、のが実情です。
残念ながら、草地更新工法の改善に必要なポイントを明確にすることが未だ十分にはできていません。当面の対策として、牧草の初期成長を促進するために、リン酸系土壌改良材の十分な施用と土壌のアルミニウム(Al)害を軽減するために堆厩肥の利用を計画することが望まれます。
3)リン酸不足・欠亡が多くの草地で継続しています。
牧草のリン酸欠乏は、若い個体の下葉の枯れ上がりから個体の枯死を引き起こします。また、成長が進んだ段階でも草丈が十分伸びず、成育段階の進行が早まり収穫量の減少をもたらします。また、家畜の嗜好性も低下することが知られています。
リン酸欠乏はリン酸施用量が少ない場合、土壌が酸性化し土壌中のリン酸が牧草に吸収できないかたちになっている場合、土壌中のアルミニウムにより根の発達が阻害されリン酸養分を吸収することができない場合などに発生します。
今年の1番草では表土に施用された春肥により窒素などは吸収され牧草の色も濃い緑色になっているもののリン酸の吸収が不十分で、草丈が低いまま出穂してしまっている症状が見られました。
土壌改良を目的とした鶏糞焼却灰の施用、また、より即効的には秋のお礼肥として苦土石灰やリン酸肥料の施肥を計画することも必要です。