石若礼子・増田泰久(久住 牧野の博物館)
2012.09.04

 カヤネズミがイネ科草本群落に造る空中巣の中で、1)報で紹介した「カゴ状巣」、「もつれ糸状巣」などは、三次元構造物としての認識が一応可能です。本報に示した「止まり木状巣」は、葉を細かく裂いてしっかり絡めた小さな台座はできていますが、とても立体的な巣をイメージできる形状ではありません。しかし、動画で示しますように、後ろ足あるいはお尻しか乗れないようなこの巣をかなりの頻度で利用しています。ただし、「カゴ状巣」や「もつれ糸状巣」とは異なり、1回の滞在時間はかなり短くなっています。現在までの観察によるとこの巣は,比較的短期間の内に崩落する場合もあれば、他のタイプの巣に改修されていく例もありました。
 小さくて不安定な「止まり木状巣」を執拗に利用する状況を観ると、カヤネズミの生活において、このようなタイプの巣を造り、利用することに何か重要な意味があるのではないかと考えさせられます。なお、筆者らが使用している巣の呼称は、仮のものであることをご了承下さい。今後、様々なタイプの巣の観察が終了した段階で、改めて形状、機能、などを総合的に考察して名称を整理したいと考えています。

 2012年8月28日15時02分~30日10時18分までの間、巣を監視カメラで動画撮影しました。撮影は小型白黒暗視カメラ(MK-323型)、画像記録はSDカードレコーダーAD-S20型(キャロットシステムズ(株)製)を用い、被写体の動きが検知された場合に録画するモーション録画で記録しました(30フレーム/秒)。撮影期間中の天気は、晴れ、最も近いアメダス(福岡県博多)のデータでは最高気温30.6℃、最低気温25.0℃、降水量0mm、平均風速7.5mでした。

 写真1の「止まり木状巣」は、エノコログサ、セイタカアワダチソウ、アメリカスズメノヒエ、メヒシバ、キンゴジカ、ヨモギ混合群落に放飼したカヤネズミの経産雌個体がエノコログサで造ったものです。かろうじてこの巣の上に乗って、グルーミングしたり、巣の補修をしたりしていますし、寝ようとする様子も見ることができます。この放飼ケージには雄個体をペアリングしていますので、動画にも雄が現れます。

写真1

空中止まり木状巣にカヤネズミが”止まる”様子


写真8.崩壊した巣の上で

動画1 皿状巣の上でバヒアグラスの種子を食べる

動画2 皿状巣の上で熟睡