石若礼子・増田泰久(久住 牧野の博物館)
2014.10.10 (2014.12.27修正)

カヤネズミが空中球状巣などを造る様子を動画撮影した例はネット上にも公開されています(例えば、http://www.arkive.org/harvest-mouse/micromys-minutus/video-03b.html)。私たちも巣づくり行動を動画に撮影し、カヤネズミが植物群落中上層部を繁殖場所として使えるようになった要因を解析する材料としたいと考えていました。今回、巣づくり行動の全行程を動画撮影することができましたので、短縮版を公開することにしました。
カヤネズミがどのような動作によってあのような球巣を作るのかを知りたいと考えて、適当に草むらの中にビデオカメラを設置しても巣づくりを動画撮影できることはまずありません。草むらのどの株のどの位の高さに巣が造られるかを正確に予測できないとカヤネズミはレンズの中にはいりません。しかもレンズと巣づくり位置との間に葉や茎などの妨害物がない条件で巣を造ってもらわなければなりません。さらに、カメラと巣づくり位置との距離が正確に予想されていないと、巣づくりの詳細な動作を撮影することは困難です。特に、夜間撮影の場合、赤外線撮影や暗視撮影が可能な機器を使うとしても焦点距離がぴったりあっていなければ画像による動作解析はできません。
 実際に野外で動画撮影を試みる場合には電源をどうやって確保するかも重要です。私達はトラック用のバッテリーを使っていますが、カメラと赤外線照明を動かすと稼働時間はやっと24時間程度です。稼働時間は、電源だけではなく画像記録能力の制限も受けます。記録する画質や記録媒体にもよりますが、連続録画可能時間は長くありません。電源の確保と録画可能時間の制約から、上述の営巣位置の予測に加えて、何時造るかの予測がかなり正確にできていないと撮影は失敗です。
 現在のところ、カヤネズミがどのような選択を行って営巣位置を決めるか、どのような要因で営巣行動に入るかに関する情報はほとんど明らかになっていません。したがって、野外で営巣を動画撮影することはほぼ不可能です。

 私達はあの球巣がどのような過程で、どのような動作によってできあがっていくのかを知りたいという欲求から、飼育下での営巣動作の撮影を試みてきましたが、狭い飼育ケージの中でさえ営巣行動の撮影は非常に困難です。上述のように巣を造る日時と場所・位置を予測しておく必要がありました。私たちは野外、室内の営巣実験の経験から、これらをほぼ確実に予測することができる手法を工夫してきました。逆に言えば、この試みはカヤネズミの営巣位置選択や営巣行動に入る要因を明らかにする情報を提供することにもなると考えています。
 その原理は、「カヤネズミの子育て余話 第1話」でHP上にも公開していますが、カヤネズミの雌親は離乳前の幼獣がいる時期に巣がなくなると、直ちに新しい巣を造ろうとする習性を示すことを利用するものです。ただし、この手法は幼獣の食殺、成長遅延などが起こらないよう厳密な時期と方法を守る必要があります。

 2014年9月23日に飼育ケージ内の繁殖巣で初産した雌親と幼獣を10月7日(分娩後14日目)に、3面が透明のアクリル板で造った約50cm×40cm×40cmの展示用ケージ(チガヤの茎葉が活けられている)に移しました。幼獣は10月6日(13日齢)に巣外に出て採食をしていました。朝9時に展示ケージに親仔を移したところ、その日の夕方にはチガヤに新しい空中球状巣が造られ、親仔で巣に入っているのが確認されました。
 公開する動画は展示ケージの天井部分に設置した小型カメラで撮影した約5時間の動画を短縮・編集したものです。

撮影は小型白黒暗視カメラ(MK-323型 f=2.5広角レンズ)、画像記録はSDカードレコーダーAD-S20型(キャロットシステムズ(株)製)を用い、被写体の動きが検知された場合に録画するモーション録画で記録しました(30フレーム/秒)。

巣づくりの様子(3分36秒、30.8MB)

親仔回収時に採取した巣
親仔回収時に採取した巣