石若礼子・増田泰久(久住 牧野の博物館)
2015.10.28

カヤネズミの生態を明らかにしていく上で、飼育下の詳細な観察は不可欠です。カヤネズミの繁殖戦略を理解するための飼育実験を実施する際に、雌カヤネズミの生理的状態の一定時期の一定期間、雄とのペアリングを行う必要があります。このために飼育ケージに入れた雄を捕獲回収する際には、容易で、しかもケージに残る雌にストレスを与えない方法を用いることが必要になります。

著者らは、カヤネズミの個体間コミュニケーションに「臭い」が重要な役割を果たしていることを本ホームページ上で報告しています(石若・増田 2014*)。今回工夫したカヤネズミ捕獲回収装置はカヤネズミが他個体(異性)がつくった巣の「臭い」に敏感に反応することを利用したもので、ペットボトルの側面の一部に空気が流通する切れ込みを数カ所いれ、口部に細い針金(布ひもでも可能であるがカヤネズミが噛み裂くのを防ぐために針金を用いた)を着けたものです。
このペットボトルにひとつまみの巣材(異性がつくった巣から採取)を入れ、ペットボトルをケージ床に寝かせて置き、ペットボトルの口部に着けた針金の他端をケージの外に垂らします。ペットボトル内に入れる巣材は同性の別個体あるいは自分自身がつくったものであってもカヤネズミは反応しますが、異性がつくった巣材に対する反応が最も敏感なようです。しばらくすると雄はペットボトルの臭いを嗅ぎまわり、口部から中に侵入します。尾先までペットボトル内に入った時点でケージ外に垂らした針金の他端を引いてペットボトルを立てると、カヤネズミは逃げることができず容易に回収されます。

この方法を用いることにより、ケージ内に残る雌に対し胎児の吸収や幼獣の殺傷を生じるようなストレスを与えることなく雄捕獲作業を行うことが可能です。
*石若・増田(2014)「カヤネズミの巣の信号的機能」https://www.kuju-ecomuseum.org/sunokinou.html

ペットボトルによる個体捕獲作業の例(20.6MB, 約1分)