石若礼子・増田泰久(久住 牧野の博物館)
2013.11.18


 カヤネズミが様々な形態の巣を造ることは既に報告しています(2012哺乳類学会大会(麻布大学))1)が、野外の巣探索時に、繁殖巣と思われる空中球状巣に近接して、空中巣を発見することがあります。
 このような巣は、休憩用の巣だとか、造りかけの巣だとか言われていますが、誰が、何時、何の目的で造ったのか確認した報告を目にしていません。今回、営巣実験中に繁殖巣とは別に空中巣ができた1事例について、育仔中の雌親が分娩後にそれを造ったことを報告し、何の目的で造られるのか解明することに資する材料としたいと思います。
 私たちは、カヤネズミが降雨後にしばしば営巣することを観察していますが(2012哺乳類学会大会(麻布大学)、この報告の飼育ケージは、建物出入口の屋根のある部分に設置したため雨が直接掛かることはありませんでした。

 観察に用いた雌親は、営巣実験用ケージ(55cm×34.5cm×高さ72cm)で分娩し、2013年8月22日に雄獣、幼獣とともに回収し、同日、チガヤを植栽したプラスチックコンテナの中に置いた営巣実験用ケージに1頭で再放飼しました。2013年8月23日に地面から底部高さ46cm(頂部高さ56.7cm)に球状の繁殖巣を造り、8月27日に4頭(離乳完了時の頭数)を分娩しました。
 8月31日から9月1日にかけて、地面から底部高さ25.5cm(頂部高さ35cm)に、繁殖巣から約23cm離れた位置に新たな巣(以下新巣と呼ぶ)を造りました。2013年9月2~3日(分娩後6~7日)および9月4~5日(分娩後8~9日)に動画撮影を行い、雌親の新巣への出入りを記録しました。
 

 撮影は小型白黒暗視カメラ(MK-323型 f=16mm)、画像記録はSDカードレコーダーAD-S20型(キャロットシステムズ(株)製)を用い、被写体の動きが検知された場合に録画するモーション録画で記録しました(30フレーム/秒)。
 表1に雌親が新巣に入った時刻、巣内滞在時間、巣に入った回数および観察時間に対する巣内滞在時間の割合を示しています。

表1.新巣へ入った時刻と滞在時間

* グルーミングが観察された

まず、繁殖巣と考えられる空中球状巣に隣接して造られることがある空中巣は、分娩した雌親が分娩数日後(4~5日後)に造るという事例が今回得られましたが、どのような目的でこのような巣が造られるかについて直接それを説明できるような状況は認められませんでした。

繁殖巣とは別に新たな巣が造られたことは、雌親が幼獣と離れる場所をもつことになると考えると、繁殖巣に親仔でいる時間帯が雌親にとって暑すぎ、幼獣と離れて涼める場所として新たな巣を造った可能性が考えられます。暑さが厳しい時期の繁殖巣がかなり目の粗い造り方で、通風をよくしていると考えられる例が観察されますが、8月末の時期に暑さを逃れるために新たな巣を造るコストを払う意味があるかどうか疑問が残ります。さらに、今回の場合、新巣を造った前日からその5日前までの平均気温は27.1℃、最高気温の平均は32.0℃、最低気温の平均は23.2℃でしたが、新巣を造った8月30日と9月1日はかなり涼しくなり、それらが、24.3℃、26.2℃および22.7℃であったことから、暑さを避けるための営巣と考える根拠は薄いといえそうです。なお、動画撮影日は、平均気温、最高気温および最低気温は、それぞれ9月2~3日が22.7℃、25.6℃および21.1℃、4~5日が23.2℃、27.9℃および18.4℃でかなり涼しい天候でした。

次に、新巣が造られた目的が、育仔の合間の休息のための場所か、という点についても明確にその機能を果たしているとは結論できない利用状況でした。1日に4から5回の利用で、単に通過するだけという場合もあり、新巣に滞在した時間が観察時間の10%以下であることは、その目的があったとしてもその意義はそれほど大きくはないように思えます。

 分娩4~5日後に繁殖巣の他に新巣を造る意味は何か明確な解釈ができる十分な根拠はありません。分娩した雌親が繁殖巣とは別に新たな巣を造る場合と造らない場合とがあり、それらの違いに関連すると考えられる環境要因や個体の生理状態を比較することにより、繁殖巣に隣接して造られる巣の意義が明らかになってくると考えます。観察例数をさらに増やして解明を進めていきます。

雌親が新しくつくった巣に出入りする様子(サイズ:21.5MB  再生時間:1分16秒)


1)https://www.kuju-ecomuseum.org/honyuruigakkaiposter.pdf

注)その後の研究によって、分娩後の営巣は、哺乳期間中における雌親の発情再帰と関連することがわかってきました。
参考:斎藤徹・高橋和明・今道友則 (1983) マウスの営巣行劃に対するProgesteroneおよびProlactin の役割について. 動物学雑誌92: 312-355.
   Ishiwaka, R. , H. Kakihara and Y. Masuda (2019) Characteristics of pregnancy following mating at three types of estrus in captive harvest mouse (Micromys minutus). Mammal Study 44(4) : 253-259.