石若礼子・増田泰久(久住 牧野の博物館)
2021.06.28

カヤネズミの妊娠期間は17~19日間、授乳期間は15~16日間であり、授乳期間が終了すると同時に雌親は幼獣のもとに戻らなくなり、幼獣は独り立ちするとされる(Harris & Trout 1991; 石若 2000)。幼獣の体重は、出生時における1~1.2gから急速に増加し、授乳期間が終わる頃には4g前後に達する(Ishiwaka & Môri 1999)。本種は分娩直後に交尾し、妊娠する場合もある。また、カヤネズミは、イヌ科の数種を除く哺乳類において唯一吐き戻し行動が確認されている種である(Ishiwaka & Môri 1998)。これらのことから、妊娠・授乳中の雌は、自分の体の維持、胎児の栄養(分娩直後に妊娠した場合には分娩後も)、泌乳、および仔に対する吐き戻しを行うために栄養を摂取すると考えられる。カヤネズミの雌親が分娩前後に通常観察される繁殖用球状巣からどの位の頻度で採餌に出かけるのか、どの位の時間採餌行動に費やすのかなどの採餌行動については全く報告が認められない。本報では、野外のイネ科群落内に設置したケージ内で飼育した妊娠雌の分娩前後の採餌活動を動画撮影することができた2事例について、採餌頻度および採餌時間帯を解析した。また、採餌行動の観察からは採餌時間帯と採餌時間帯の間に雌親が巣に戻っているのかどうかは明らかではないため、繁殖巣の出入り時刻を動画撮影により記録することを試みた。繁殖巣の中には季節や幼獣の発育段階によって出入り口が2から3カ所ある例があり、雌親の全ての出入りを確認することは困難な場合もある。今回、野外ケージ内で分娩した雌親が冬季の繁殖巣で1カ所の出入り口を利用する事例を動画撮影することができたので、巣内滞在時間帯を記録できた1例について報告する。

方法
調査地
 以下に報告する事例は、福岡県内(北緯33°38′、東経130°30′、標高50m)で実施している野外ケージにおけるカヤネズミの営巣実験で得られたものである。気象データはアメダス地点(福岡県博多、調査地から南西7km)のデータ(気象庁気象統計情報 http://www.jma.go.jp/jma/menu/report.html)、日の出日の入り時刻は国立天文台天文情報センタ-(http://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/)によった。

事例1
チガヤ(Imperata cylindrica var. koenigii)を優占草種とし少量のネザサ(Pleioblastus chino var. viridis)およびメリケンカルカヤ(Andropogon virginicus)が混生する群落内に幅55cm、奥行き34.5cm、高さ72cmの金網ケージを設置した。ケージ内には、地表面に接する位置と高さ65cmの位置に給餌器を1個ずつ、および高さ36cmの位置に水入れを1個設置し、観察個体が自由に採餌または飲水できるようにした。給餌器は、カヤネズミが穀粒および固形飼料を数日間採取でき、雨水がかからないように加工したもので、給餌器下部から採餌する様子を観察することができる。給餌器内の餌はアサ果実(市販麻の実)、玄米およびマウス用固形飼料(オリエンタル酵母)とした。カヤネズミは給餌器から子実を1個づつ前歯でくわえて採餌し、両前肢で保持して果皮を剥き咀嚼するため、動画観察により採餌子実個数をほぼ正確に推計することができる。
2013年2月3日に妊娠後期のカヤネズミ雌1頭を放逐した。2013年2月14日巣内に幼獣が確認され、開眼や体毛発達の程度・動き・体の大きさなどから9日齢と推定された。すなわち、雌親の分娩日は2月5日とした。2月24日(幼獣19日齢)、同じ草種構成の新たな群落にケージを移設し、幼獣を雌親から分離して雌親のみを再放逐した。なお、分離の時点で幼獣は3頭おり、そのうち2頭は正常な成長を遂げていたものの、残りの1頭は体が小さくやや成長不良の状態であった。 2013年2月16日(分娩後11日目)の17時から約13時間および19日(分娩後14日目)の16時から約16時間、授乳中の雌親の給餌器付近における採餌の様子を動画撮影した。さらに、27日(母仔分離後3日目即ち分娩後22日目)の16時から約21時間、妊娠および授乳のいずれもしていない状態の同雌個体の採餌活動を授乳中と同様に撮影した。撮影した動画を観察し、採餌時間帯と採餌されたアサ果実および玄米の子実個数を計測した。また、19日は14日齢幼獣が給餌器付近に来て採餌する様子が撮影されたため、幼獣の採餌時間帯を記録した。

事例2
前述の金網ケージを2012年10月に播種したイタリアンライグラス(Lolium multiflorum)および青刈りエン麦(Avena sativa)の個体数が約1:2の混生群落内に設置した。ケージの大きさ、給餌器、給水器の設置および餌の内容は事例1と同様である。妊娠中期のカヤネズミ雌1頭を2013年4月5日に放逐した。放逐時の群落草高は約90cm、イタリアンライグラスは開花期、青刈りエン麦は結実期であった。
雌個体は4月7日に地上25cmの高さに球状巣を造り、4月14日に撮影した動画における行動や体型の変化から、4月14日午前中に分娩したと判断し、当日を分娩日として、分娩前後の日数および幼獣の日齢を起算した。
2013年4月8日(分娩前6日目)から4月29日(分娩後15日目)までの間、午後4時頃から約24時間の動画撮影を計14回実施した。分娩後15日目の4月29日午後、ケージ内にヘビ(ジムグリ)が侵入したため、観察を中止し、親仔をケージから回収した。なお、回収時点で幼獣は3頭で、他に1頭がヘビに補食されたと推測された。

事例1および事例2ともに給餌器上部にある固形飼料を1日に数回採餌することが観察されたが量的な確認ができなかったため、この報告では固形飼料の採餌については除外した。なお、分娩後日数については分娩日を0日、幼獣の日齢については出生日を0日齢、母仔分離からの経過日数は母仔分離を行った日を0日目とした。

動画撮影
撮影には赤外線照明付き小型白黒暗視カメラ(MK-323型 f=3.6mm)、画像記録にはSDカードレコーダーAD-S20型(キャロットシステムズ(株)製)を用い、被写体の動きが検知された場合に録画するモーション録画を30フレーム/秒で記録した。撮影装置の電源には自動車用バッテリーを用いたため、気温などの影響で給電維持時間が日によって異なり、同一時間帯で撮影を実施することができなかった。

結果
事例1
表1に動画撮影日、撮影時間、撮影日の天候および日の出日の入り時刻を示した。
実験地点における簡易測定器具による最低気温の観測値は、アメダス地点のそれより約1.5℃程度低い例が多いことから、2月17日~18日の最低気温は氷点下であったと推定している。

表1.動画撮影日、撮影時間、撮影日の天候および日の出日の入り時刻

雌親が2月2~3日に造った繁殖巣は、群落高約65cmの中層(巣の上端が地表から34cm、下端が25cmの高さ)にあり、地表に設置した給餌器から巣までの直線距離は約50cmであった。幼獣の最初の出巣日が11日齢であることから(石若, 2000)、2月16日に巣外に出る幼獣もいると考えられたが、その日の動画撮影中地表の給餌器付近に現れず、2月19日撮影の動画で採餌の様子が確認できた。
図1に各観察日毎の雌親の採餌経過を、横軸に採餌時刻、縦軸に観察開始時からその採餌までの累積採餌粒数を用いて表示した。

図1.雌親の分娩後11~12日目、14~15日目および母仔分離後3~4日目(分娩後22~23日目)における採餌経過

分娩後11日目17:10~12日目4:46における雌親の採餌時間は、7回の時間帯、計208分(観察時間の30%)で、採餌量は計131個であった。30個以上の子実が摂取される30分から1時間ほどの採餌が2時間半~3時間間隔であり、それらの採餌の間に3~11個の子実が摂取される20分以下の採餌が見られた。なお、この雌親は給餌器から子実を1個ずつ持ち出し、チガヤの株元に運んで食べる傾向が強かった。
分娩後14日目 15:00~15日目7:08における雌親の採餌時間は、6回の時間帯、計244分(観察時間の27%)で、採餌量は計99個であった。分娩後11~12日目と同じ撮影時間内では30分以上の採餌時間帯が4回(観察時間の30%)あり、それらの間隔は1時間半から2時間半であった。1回の採餌時間に摂取される子実は12~20個、計82個で、11~12日齢の幼獣を授乳していたときと比べいずれも著しく減少した。
分娩後22日目15:33~23日目 15:00(母仔分離後3~4日目)における雌親の採餌活動は、1回5~50分の採餌時間帯が8回、計283分(観察時間の20%)、採餌量の合計は42個であった。分娩後11~12日目と同じ撮影時間内では4回の(観察時間の10%)採餌時間帯で計25個を採餌した。これは1回目の採餌量の19.1%であった。また、2回目の動画撮影時と同じ時間帯における採餌量と比較すると、その30.5%に低下していた。
図1の上部に14~15日齢の幼獣が給餌器付近に現れて採餌様行動をした時間帯を示した。
幼獣全頭が同時に採餌する例は少なく、3頭のうち1頭以上採餌していれば採餌が行われているとした。1回12~42分の採餌時間帯が5回観察され、いずれの採餌活動も雌親の採餌時間帯内に限られており、幼獣の採餌終了時刻は雌親のものとそれぞれ一致していた。なお、2月24日の母仔分離時(幼獣19日齢)の体重は、雌親8.23gおよび幼獣3.69g (♂)・3.64g (♂)・2.88g (♂)であった。

動画1に雌親の分娩後12日の採餌の様子および動画2に分娩後14日目の母仔の採餌の様子を示した。

事例2
 雌親が4月7日に造った繁殖巣は、群落高約65cmの中層(巣の上端が地表から30cm、下端が20cmの高さ)にあり、地表に設置された給餌器から巣までの直線距離は約60cmであった。動画解析と肉眼的観察から、雌親は2013年4月14日早朝に出産したと推定された。分娩後13日目の4月27日夕方、幼獣が給餌器付近に現れ、子実を採食する動作が観察された。この時点で3頭の幼獣が確認された。4月29日(分娩後15日)の回収時に測定した雌親の体重は、8.3gであった。なお、雌親は分娩後妊娠していない。
 表2に観察日毎の観察時間、雨量、最高気温、最低気温、日の出時刻、日の入り時刻を示した。また、図2には、各観察日毎の雌親の採餌経過を、横軸に採餌時刻、縦軸に観察開始時からその採餌までの累積採餌粒数を用いて表示した。

表2.動画撮影日、撮影時間、撮影日の天候および日の出日の入り時刻


観察日毎の雌親の採餌経過

 分娩後11~12日の約24時間の採餌粒数は313個に達した。採餌時間帯は1回目が17時14分~19時19分までの125分間、2回目が22時04分から23時46分までの102分間、3回目は1時06分~2時39分までの93分間であった。

考察
 観察時間内に採餌された子実の重量(g)推定を試みた。動画から玄米とアサ果実を見分けることはできないため、玄米100粒重とアサ果実100粒重を測定し、給餌器の両者の混合割合から混合餌の加重平均100粒重を算出した。この数値をもとに、雌親が両餌を混合割合と同様の比率で食べたと仮定した場合の採餌重量を採餌粒数から計算した(アサ果実については果皮を除いた数値)。幼獣が11~12日齢時に雌親によって摂取された子実131個は2.08g、幼獣が14~15日齢時にやはり雌親によって摂取された82個は1.30g、母仔分離後3~4日目に摂取された25個は0.40g、および同じ日の24時間に摂取された42個は0.67g(雌親の体重の8.6%)であった。
 玄米とアサ果実に対する嗜好性は季節・個体・性別、あるいは妊娠・授乳など雌の生理状態によっても異なり、またどちらか一方を選別して他方を給餌器外に遺棄したり、一旦遺棄した子実を拾って食べたりすることもしばしば観察された。
 報告した2事例の採餌活動を比較した場合、採餌量は事例2の個体が多く、事例1と同時間帯の17時~4時で比較しても約70個以上多い、推定採餌重量は4.98g採餌量であった。採餌時間帯は事例1の個体が午前4時までに6回、事例2の個体が3回で、本個体は事例1個体より1回の採餌時間がかなり長かった。事例1個体が午前4時までに6回、本個体が3回で、本個体は事例1個体より1回の採餌時間がかなり長かった。すなわち、なお、事例1の個体が30分以上の採餌を行った時間帯は、17時50分~19時01分、22時01分~23時00分および1時36分~2時07分であり、日長や気温が大きく異なるにもかかわらず両事例の個体の採餌時間帯はかなり一致していた。
 観察に用いた野外ケージには不測事態による給餌不能の回避および群落空間の高さ別採餌活動調査の目的で地表と最上部に1個ずつ計2個の給餌器が設置されており、ケージ内のカヤネズミは両方から採餌が可能である。また、飼育個体の観察および野外ケージを用いた1年以上の観察から、カヤネズミにはアカネズミやヒメネズミに見られるのと同様の貯食の習性はないと推察される。これらのことを踏まえ、両給餌器内に残留している餌の高さの推移から、すべての観察時において総採餌量の94~95%が地表の給餌器から採餌されていたと考えられる。
 幼獣14~15日齢時および分離後3~4日目の観察における子実1個あたりの採餌時間が幼獣11~12日齢時のものに比べて長かった。本実験に用いた雌は給餌器から子実を一つずつくわえて持ち去り、給餌器近くのチガヤの根元で摂取する傾向が強かったが、そのチガヤの根元はカメラから写りにくい位置にあり、そのときの雌の動きを正確に捉えることはできなかった。ただし、屋内の飼育個体において、子実を食べる合間に毛繕いする、あるいは何もせずじっとして休息するような状態になることがしばしば観察されている。このことから、幼獣14~15日齢時および分離後3~4日目の観察では、子実を摂取する合間の毛繕いや休息に費やされる時間が幼獣11~12日齢時のものに比べて長かったため、子実あたりの採餌時間が長くなったのではないかと推察される。
 図1に示した母仔分離後3~4日目における雌親の採餌量は体重の8.6%を占め、別の実験で得られた未経産雌における体重の16.1%に相当する採餌量(石若・増田 2012のデータから果皮を除いた値に改変)に比べ低い値であった。また、カヤネズミは巣を造る間、餌の摂取量が低下することが確認されている(石若・増田 2012)。親仔分離後3~4日目の採餌量が未経産雌のものに比べて低かった理由は不明であるが、母仔を分離しケージを新たな群落に移設した翌日(母仔分離後1日目)地表に楕円体状の巣が確認されており、雌親の採餌量が営巣に伴って低下した可能性は低い。

 カヤネズミの雌には分娩直後に発情するいわゆる後分娩発情のあることが知られており、そのため授乳しながら妊娠する連産が見られる(Trout & Harris 2008; Ishiwaka et.al 2019)。したがって、授乳中の雌親が妊娠している場合、雌親の体の維持・運動・泌乳および吐き戻しに必要な栄養分に加え、胎仔に与える栄養分をも摂取しなければならないことになる。その場合、雌親の採餌活動は本観察で得られた結果よりさらに活発になると推察される。 カヤネズミの雌親が哺育期間中に本実験に示される以上の時間と頻度で巣を離れ、餌の探索および採餌を行うとすれば、雌親が天敵に遭遇する危険も高まり、また幼獣の成長や発育にも影響が及ぶと考えられる。繁殖の成功のためには、繁殖巣が豊富な餌が容易に得られる場所にあることが重要と考えられるが、カヤネズミの食性ついてはごくわずかな報告しかない(Dickman 1986; Ishiwaka & Masuda 2008; Okutsu et al. 2012)。カヤネズミの繁殖に適した環境を知るためには、カヤネズミがいつどこでどのようなものを食物として利用しているかを明らかにすることが不可欠である。

文献

Dickman, C. R. (1986) Habitat utilization and diet of the harvest mouse, Micromys minutus, in urban environment. Acta Theriologica 31, 249-256.

Harris, S. and R. C. Trout (1991) Genus Micromys. The Handbook of British Mammals. 3rd edn (eds, G. B. Corbet and S. Harris), pp. 223–239. Oxford: Blackwell Scientific.

Ishiwaka, R., Kakihara, H. and Y. Masuda (2019) Characteristics of pregnancy following mating at three types of estrus in captive harvest mouse (Micromys minutus).Mammal Study 44: 253-259.

Ishiwaka, R. and T. Môri (1998) Regurgitation feeding of young in harvest mice, Micromys minutus (Muridae, Rodentia). Journal of Mammalogy, 79, 1911–1917.

Ishiwaka, R. and T. Môri (1999)Early development of climbing skills in harvest mice.Animal Behaviour, 58, 203–209.

石若礼子(2000)カヤネズミMicromys minutus の成長および哺育行動と生息環境への適応. 学位論文.

Ishiwaka, R. and Y. Masuda (2008) Possible biological control of the armyworm by the harvest mouse. Grassland Science, 54, 52-56.

石若礼子・増田泰久(2012)カヤネズミの飲水量はどの位か?http://www.kuju-ecomuseum.org/ drinkwater.pdf

Okutsu, K., S. Takatsuki and R. Ishiwaka (2012) Food composition of the harvest mouse (Micromys minutus) in a western suburb of Tokyo, Japan, with reference to frugivory and insectivory. Mammal Study, 377, 155-158.

Trout, R.C. and S. Harris (2008) Mammals of the British Isles: 4th edn, (eds, S. Harris and D.W. Yalden), pp.117-125. Southampton: The Mammal Society.

*著者コメント
・この論文は野外ケージにおける採餌行動の観察結果を記述したものであり、フィールドにおけるカヤネズミ雌親の採餌行動を推測するには限定的な情報である。
・フィールド条件では、餌の探索行動により長時間を要するであろうこと、移動中および採餌中に他種動物と遭遇する可能性があること、さらにはカヤネズミ雄との遭遇で繁殖行動に移行する場合もあることなどにより、巣外滞在時間は長くなり、出巣頻度も変動すると推測される。
・今後の研究課題として、カヤネズミが繁殖巣を作る位置、場所の選択に餌資源の分布(即ち営巣植物の周辺の植生分布)が非常に重要な要因となることを明らかにすること、雌親の離巣時間が長くなる可能性が高い条件で、残された幼獣は空腹の進行や体温低下に対してどのように対応しているのか、などがあげられる。
・この論文は2013年にホームページに掲載したが、大幅に修正し、書き直したものである。