石若礼子・増田泰久(久住 牧野の博物館) 2012.08.18改訂版
カヤネズミがイネ科草本群落に造る空中球状巣は、多くの研究者、環境保護に携わるボランティアをはじめ、一般市民の皆さんにも注目され、調査の対象にもされています。あまりに空中球状巣に関心が偏った結果、生活や繁殖などのカヤネズミの生態の全体像が正しく把握できなくなっているのではないかと危惧しています。
筆者らは、イネ科草本群落内に野外ケージを設置し、カヤネズミを放飼して、営巣行動を詳細に調査しています。その結果、カヤネズミは群落の空中や地表に様々な形態の巣を造ることが明らかになりました(詳細は「2012哺乳類学会大会(麻布大学)」で発表)。
「造りかけの巣」、「壊れかけた巣」、「すかすかの巣」などと扱われていた巣が、実はカヤネズミにとって意味のある、明確な機能をもつ巣であると考えています。ここでは、チガヤ群落に設置したケージに放飼したカヤネズミ未経産雌個体が、造った空中カゴ状巣をどのように利用しているかを例示してみます。
2012年7月25日15時19分~26日11時15分までの間、カゴ状巣を監視カメラで動画撮影したものです。撮影は小型白黒暗視カメラ(MK-323型 f=3.6mm)、画像記録はSDカードレコーダーAD-S20型(キャロットシステムズ(株)製)を用い、被写体の動きが検知された場合に録画するモーション録画で記録しました(30フレーム/秒)。
撮影期間中の天気は、晴れ時々曇り、最も近いアメダス(福岡県博多)のデータでは平均気温29.3℃、最高気温33.2℃、最低気温26.2℃、降水量0mm、平均風速2.1mでした。
カヤネズミは監視撮影時間1196分の28.9%の時間、346分をカゴ状巣の上で過ごしました。画像解析の結果、巣上での主要な行動であったグルーミング、巣の補修、睡眠(休息)について、それぞれの動画ファイルを掲載してみました。
この個体は上記カゴ状巣から20cmほど離れたところに新しい空中カゴ状巣を造りました。
監視カメラによる新しい巣の利用は、監視時間1440分の内、486分(33.8%)を新しいカゴ状巣の上で過ごしました。グルーミング、睡眠(休息)、巣の補修などの行動が観察されました。その内、巣の補修行動の動画(カゴ状巣の補修(2))を掲載します。
この文書は、「造りかけ」と見られるような簡易な巣が、カヤネズミによってかなりの時間利用されていることを示し、その生態的重要性を示唆したものです。しかし、監視カメラによって得られたデータは、限られた空間と特定種と構造の植物群落における結果であり、カヤネズミの営巣に関する習性や行動の全体像を把握するためには、なお詳細な研究が蓄積される必要があります。
追補)7月5日~6日に経産個体がススキで造った「もつれ糸状巣」を利用する様子が撮影できましたのでご覧下さい。「もつれ糸状巣」は葉先を裂いて絡め合わせただけの簡単なもので、とても巣と認識するのは困難ですが、カヤネズミはその上や絡んだ糸の中で、グルーミングをしたり、休息したり、餌を食べています。
カゴ状巣におけるカヤネズミの行動
動画をご覧下さい(画像をクリックするとWindows Media Playerで再生されます)。
*動画ファイルを数枚結合していますので、動作が不自然な部分があります。
動画1:カゴ状巣でくつろぐ未経産雌
動画2:カゴ状巣の補修
動画3:カゴ状巣で眠る
動画4:カゴ状巣の補修2
動画5:もつれ糸状巣でアサの実を食べ、巣の補修をするカヤネズミ