2012年秋に更新したT、O、GおよびI牧野の2013年4月下旬の状況
・播種した牧草に枯死個体が多数発生し、何らかの要因による生育障害と推定される
・その結果、裸地が発生している
・表土流亡、侵食の発生が見られる
更新法の概要
対象草地の更新は、目標土壌pHを6.2として土壌調査に基づいて土壌改良材の施用量を求め、9月中に施肥・播種を終了している。播種牧草はオーチャードグラス3:トールフェスク1の割合。
生育障害の原因
2012年秋~春の日平均気温および日最低気温を平年値と比較し、以下の考察をした。
・播種後、10月1日~16日に降水が記録されていない他は適度の雨があり、少雨による発芽障害ではない
・多くの枯死個体は霜柱に持ち上げられて枯死した、あるいは表土が水に流されて浮き上がって枯れた様に見える
・表土の流亡が起こるほどの強い雨があったようではない
・11月から最低気温が0度以下となる日があり、12月、1月の気温は例年より低い傾向があったが、寒地型牧草の重大な生長障害が発生するほどとは考えられない
したがって、『牧草の生育障害や表土流亡・侵食の原因は気象要因ではない』と考える。
個体の生育状況を観察する
・主茎が枯れ、分げつが生長している
・生長した茎葉も下葉は緑色が薄く、葉先から枯れ始めている
・根の発達は悪く、色も茶褐色
・O牧野の裸地部にはヨモギ、カモジグサが生え、カモジグサにはリン酸欠乏症状が見られる
したがって、『生育障害は養分欠乏-リン酸欠乏―ではないか』
『根の発達阻害はアルミニウム害が発生しているのではないか』と考える。
土壌pHの確認
2013年4月22日~23日に採取した更新草地の土壌表層(5cm程度)および2013年5月9日に採取した深さ0-10cmおよび10-15cm層のpH(H2O)を測定した。
・表層土層はpH7以上の中性からアルカリ性を示した
・耕土の牧草の根が伸長する層(10cm以下)では更新後6ヶ月以上経過しても酸性が強いところがあった
・深さ5cm付近に施用した炭カルの層がある所が見られた。
・炭カルは溶解性が低く、長期的な土壌改善効果はあるが、即効性ではない
したがって、『施用した炭カルは土壌表層に蓄積し、土壌改良効果は出ていなかった』と推定される。
推定される原因
以上のような検討から、『牧草の発芽・初期生長時には炭カルによる土壌改良効果は出ておらず、根が伸長する土層の酸性は強く、アルミニウムによる根の生長障害やリン酸の不溶化によるリン酸欠乏が生じた』と考えられた。
『その結果、養分欠乏による枯死個体の発生や根系が浅いために土壌保持能力が低く、霜柱による根の切断、流水による抜根、表土の流亡、などが起った。』
今後の対策
①作業工程の再確認
・土壌改良材の施用および撹拌作業機の作業工程の詳細な打ち合わせが必要
・播種までの期間を十分取る
②土壌改良材の施用量の算出法の再検討
「農研機構成果情報」に指摘されているように、久住地域には非アロフェン質黒ボク土が存在しており、造成・更新時の土壌pHの矯正には、
・緩衝曲線法による石灰必要量推定の採用
・アレニウス表による算出の場合の補正
が必要である。
③pH矯正用石灰資材の施用法については、予備的なポット試験を実施しており、その結果を見て研究機関で実用レベルの試験を実施し、今後のマニュアル化を図る。