2011年第3回草地調査
今年は1番草刈り取りが大幅に遅れただけではなく、2番草の刈り取りも順調にいかなかった牧場も見られました。しかし、刈遅れで質の悪い飼料になったにも関わらず、ほとんどの牧場で一度は刈り取りを行うことができたことは、草地管理の基本として大変良かったと思います。
(1)刈り取りが例年通りの日程で実施できず、伸ばし過ぎ状態となった場合にどのような影響が草地にでるかを考えてみました。各牧場で今年の管理で草地に何が起こったかを考え、今後の草地管理の留意点にしてください。
永年牧草が主体の草地の場合
①牧草の個体数の減少:オーチャードグラスやトールフェスクのような永年生の株型の牧草では、刈り取りが遅れると、地上部では茎葉が重なりあって、太陽光を取り合う競争が激化し、地下部では土の栄養分を取り合う競争が激しさを増します。その結果、小さな個体が大きな個体に圧倒され枯死していきます。草地の個体数は減少し(密度低下)、大きな株だけが目立ち(株化)、株の間に裸地が広がる草地になります。
②収量の低下と雑草の侵入:密度の低下が大きいと収量の低下につながります。オーチャードやフェスクのような株型牧草は、一度裸地ができるとそこを埋めて回復する能力はありません。また、株間の裸地は土壌中に眠っていた種子、草地外から入った種子の発芽・成長の場所となり、ギシギシをはじめ雑草の繁茂が始まります。また、本来頻繁な刈り取りには弱いために草地に入れないあるいは優勢になれない植物(灌木類など)が拡がっていくケースも起こります。
イタリアンライグラスが主体の草地の場合
①1番草、2番草の刈り遅れは飼料としての価値を大きく低下させますが、イタリアンは十分な種子を確実に落としています。落ちた種子の発芽時期(9月末から10月中旬)に刈り取りができれば、来年の1番草になるたくさんのイタリアンが発芽・生長してきます。今年は作業が思うようにできず荒れてしまった草地でも、来年はまた元のイタリアン主体の草地の状態に戻すことができます。
(2)夏枯れについて
九州の寒地型永年牧草の利用管理で大きなポイントの一つは夏枯れをどう防ぐかです。今年は、夏の刈り取り時の草地の状態が牧場によって様々でしたので、夏枯れの発生も色々なケースが見られました。その中で、去年の猛暑、今年の天候不順による不規則な刈り取り条件で、オーチャードグラスがほとんど消滅し、トールフェスクが優勢となる例(うその尾調査地に隣接する草地)が見られました。今後もこのような気候が続くとすれば、トールフェスクの活用という選択肢も準備しておく必要があります。
(3)3番草刈り取り時期の重要性について
今年の刈り取り時期は例年と大幅にずれ、かなりの牧場で8月末から9月上旬に刈り取りを行っています。この場合、冬までにもう一度刈り取りをするかどうかは各牧場の状況によりますが、秋の刈り取りが持つ意味を整理しておきますので、これも考慮に入れて判断して下さい。
イタリアンが主になっている草地では、草地に優占するイタリアンの種子は発芽に適した温度、土壌水分の元で光を受けると一斉に発芽する性質を持っていますので、9月末~10月中旬に刈り取りが行われることがベストです。今年のように9月上旬頃に刈り取りが行われた場合、メヒシバやイヌビエがどの位再生して生長するかは秋の気温の影響などで年によって違いますが、草地をかなり厚く覆うようであれば刈り払いをすることで、来年1番草の収穫が確実になります。
寒地型永年草(オーチャードやトールフェスク)が多い草地の場合には、①夏の暑さで消耗した株を回復させる、②越冬を確実にさせるために養分をしっかり貯めさせる、③来年の夏を確実に越す体力作り、④イタリアンが増えてきた草地では、イタリアンの発芽を抑たり、発芽を遅らして小さいイタリアンに霜や低温の害を与える、などの効果を考え、刈り取りは10月末~、あるいは刈り取りを行わないなどの対応が有効と考えます。
付:大規模な裸地が発生した牧場の対策について
更新を実施しないということですので、来年の状況と対応策を検討してみました。
来年は、永年生の草として、ヌカボ、ベルベットグラス、オオバコ、エゾノギシギシおよび部分的にオーチャードグラスがパッチ状に生育し、草地の大部分は1年生の草として、春はスズメノカタビラ、ミミナグサ、ハコベ、ナズナなどおよび点々とイタリアンライグラス、夏から秋はイヌビエとメヒシバが覆うという状況になります。収量は、1番草はあまり多くはないですが、2番、3番草はイヌビエ、メヒシバで量を獲ることはできます。
改善の方向としては、減少してしまったイタリアンを少しずつ回復させるという方向になります。そのためには、イタリアンの種子を確実に落とさせること、イタリアンの発芽と初期生長を十分確保するよう秋の刈り取りを9月下旬~10月初旬に行うことが必要です。来年これが実施できれば、早ければ再来年の1番草ではイタリアンがかなり戻ると思われます。ただし、イタリアンの回復で草地を改善するという方向が適切かどうかは、来年春の永年生植物の専有程度で判断する必要があります。ヌカボ・ベルベットが非常に増えているようであればイタリアンの回復も困難ですので、改善法を再検討する必要があります。
今年の植生の悪化は、土壌の酸性化が根本的な原因になっていますので、来年秋からは土壌改良資材の投入を計画する必要があります。