―――採草利用中の草地への表面散布の場合―――
土壌酸性害を緩和する効果を期待して、堆肥利用がかなりの牧場で進んできました。化成肥料が異常に高騰している状況の中、堆肥利用目的がN/P/Kなどの肥料成分供給効果の期待へと代わる時期に来ていることも感じられます。連年施用を行う牧場もあり、堆厩肥の草地利用について情報を整理し、適切な利用技術を確立できるように対応しておく必要があります。7月に竹田市地域の草地関係者で意見交換会をもちました。その折りに、提供した検討資料を掲載します。
堆厩肥施用による化学肥料節約(減肥)効果と過剰施用防止を図るためには、
1.堆肥の肥料成分含量をどう推定するか
2.施用された堆肥の肥料成分が牧草に利用される効率をどの程度に見積もるか
3.牧草成分への影響
4.連用する場合に土壌中に蓄積する可能性のある成分と濃度
5.河川、地下水への流亡の可能性
などの検討が必要である。
これらの点を論議する上で、対象となる久住高原の草地がかなり特殊な条件を持っていることを確認しておく必要がある。
◎久住高原草地における堆肥施用の最も重要な意義
化学肥料の連年施用や酸性雨などの影響により進行する黒ボク土壌の酸性害を防ぐためには、石灰資材、リン酸や苦土の十分な投与が必要であるが、多くの草地では不足し、土壌の酸性化がみられる。
堆厩肥に含まれる腐植は土壌の酸性害、特にアルミニウムによる根系の生育阻害を防ぐ効果が大きく、また、堆肥によるリン酸供給も黒ボク土草地では収量維持に貢献する。特に、久住のイタリアン-イヌビエ・メヒシバ草地の場合には、秋のイタリアンの発芽・初期生長における根系の発達が収量をあげる上で重要であり、以前に発生したような裸地化を避けるためにも堆肥施用は有効である。
◎堆肥施用時期の問題
草地における堆肥投入は、通常、晩秋から早春に行われている。これは、①草地の構成草種が永年生イネ科牧草を前提としているので、牧草の休眠時期を選び、地上部が散布された堆肥で覆われる害を避ける、②積雪がある地方では融雪効果をねらう、③放牧地帯では冬の舎飼期における糞の堆積に備えて晩秋に堆肥場を空けておく、④低温少雨の時期に散布することで散いた堆肥からの成分の流亡・揮散を避ける、などの理由がある。
久住の場合には、イタリアン-イヌビエ(メヒシバ)主体の草地が多く、最も重要な理由である①が当てはまらない。逆に晩秋から早春のイタリアン発芽、実生個体の成長時期には、散布堆肥で地上部が覆われることが、発芽・生育障害の原因となる。イタリアン主体の草地では、発生した裸地や欠株は、翌年以降回復することはできるため、1番草のムラを許容することができれば、この時期の散布も実施できる。
イタリアンに害が出ない時期を選ぶとすれば、1番草刈取り直後、2番草刈取り直後が考えられる。1番草刈取り直後の場合には、再生に若干の被害が出る可能性があること、作業実施が天気(梅雨直前)や田植えとの関係で困難となるかもしれない等の問題がある。2番草刈取り直後の場合は、3番草になるイヌビエ、メヒシバの発芽生育に害がでるが、イヌビエの場合は種子が大きいこと、2番草の中で発芽した個体も多いこと、収量は密度より草丈の影響が大きい傾向があること、などから害は少ない可能性はある。この場合、労力的には畑作業との競合はあるかもしれない。
冬季以外の牧草生育期における堆肥散布の場合、ロール等に堆肥が混入する可能性があり、サイレージの品質低下の要因になり得るため、散布量には注意が必要となる。
冬季以外の施用では、雨や高温の影響により、堆肥の肥料成分の流亡、分解、揮発が大きくなるのは避けられない。
◎堆肥が草地表面に施用されるという特殊な条件
堆肥成分(有機態あるいは有機物と結合)が牧草によって利用されるためには、堆肥成分が土壌微生物により分解・無機化されなければならない。草地の土壌表面に施用された堆肥の分解、成分の化学形態の変化、成分の揮発・流失の様相は、畑作や草地造成時の土壌中へのすき込みとは異なっている。
堆肥成分の無機化(牧草の根から吸収可能な形態への変換)、分解産物の土壌への移行、吸着、流亡、揮発が総合した結果である利用率あるいは肥効率をどの程度に見積もるかが、施用量あるいは化学肥料節減量を決める上で重要な値である。
堆肥の表面施用の北海道での例では、肥効率は数%~数十%と大きなバラツキがある。久住のような多雨、夏季高温で傾斜の多い草地における堆肥成分の肥効率が、どの程度になるかは重要ポイントとなる。
*肥料利用率:施用した肥料に含まれている養分のうち何%が作物に吸収利用されたか
*窒素無機化速度:堆肥中の全窒素成分(主体は微生物などの有機態窒素)のうち、その年に無機化され、作物に吸収されるようになる窒素の割合
*肥効率:化学肥料の成分利用率を100とした場合の堆肥成分の利用率
◎堆肥の連用を行う牧場が増えるとすれば、収穫牧草の硝酸態窒素含量や土壌中の加里蓄積などを簡易にモニターする仕組みを整備する必要がある。
今回は、具体的な技術的内容の検討までは至りませんでしたが、草地への堆厩肥利用を推奨する方向で対応すること、その場合、水田や畑作への堆厩肥利用とは異なり、完熟でない堆肥の利用をも含めて取り組むことも可能であることが、共通の認識としてほぼまとまりました。 なお、堆厩肥の施用量としては、牧草の硝酸態窒素含量や加里などの蓄積に留意する必要はあるが、上記のような地域の草地植生の特徴から、写真の様な草地表面の被覆程度が重要であることを強調しました。