久住 牧野の博物館

2021年第3回草地調査

2021年9月7,8日、第3回の草地調査をおこないました。梅雨明けが遅れたために、2番刈りがかなり遅れた草地が多かったようです。また、8月の気温も低めで、多くの草地でかなり多くのイタリアンライグラス個体が越夏しているのが観察されました。

1)1,2番草のイタリアンライグラスから3番草でメヒシバ・イヌビエに変わる草地(イタリアンライグラス・夏型一年生イネ科草交代草地)では、2番刈りの遅れにより、メヒシバ・イヌビエの成長が遅れています。例年のような9月末の3番刈り取りでは収量が十分にあがらない草地もあり、刈り取りを10月にずれ込ませる判断をされる牧場もあると考えられます。収穫量を確保するためにはやむを得ない判断だと思われますが、3番草の主体であるメヒシバ、イヌビエはこの時期には成長はほぼ停止し、茎葉の栄養価も著しく低下しています。収穫時期を遅らせることによる餌としてのメリットはあまり期待できません。

 2番刈りが遅れたために3番草の刈り取りを遅くした場合の翌年の1番草への影響がどうなるかを考えておく必要があります。

夏を越すイタリアンライグラス

 2015年も梅雨明けが遅れ、2番刈りが遅れたために多くの草地で3番草の刈り取りも大幅に遅れました。翌年2016年の1番草の調査データを見ると、標高が700m以上の草地ではイタリアンライグラスの割合には例年と大きな変化は認められませんでした。しかし、標高が低い草地ではイタリアンライグラスの割合が低下する傾向が出ていました。この時の予想では、標高の高い草地ほど10月下旬には気温がかなり低下するため、土壌に落ちていたイタリアンライグラスの発芽・初期成長が大きな影響を受け、翌年の1番草のイタリアンライグラス密度が大きく低下する恐れがあると考えていました。この時の想定が外れた要因は、高標高の草地では株のまま夏を越すイタリアンライグラス個体が多く、3番刈り後の発芽イタリアンライグラス個体が少なくなっても、翌年の1番草においてこの越夏イタリアンライグラスが順調に成長し収穫の主体となり、減収が起こらなかったようです。

標高が低い草地の場合には翌春1番草の収穫が3番草に発芽するイタリアンライグラスが主体になるために、3番草の遅刈りで発芽機会を失い減収したものでした。

 今年も2015年と同様に越夏イタリアンライグラス個体の増加が観察され、さらに今年のばあいは8月の低温傾向、多雨の影響で2番刈り後に発芽し順調に生育するイタリアンライグラス個体も多く、3番草刈り取り遅れは来春1番草の収量に影響することはないと推測しています。ただし、標高の低い草地(現在は調査対象から外れていますが)では、来春の1番草の主体は3番刈り後の発芽個体になりますので、やはり10月中旬以降の刈り取りは減収になります。

 オーチャードグラス・トールフェスのような寒地型多年生牧草草地の場合は、牧草密度の低下は、その後の収量低下の原因となり、最終的には草地更新をせざるを得ないのですが、多くの久住高原の草地のようなイタリアンライグラス・夏型一年生イネ科草交代草地の場合には、今年のような特異な状況があっても、通常の利用管理を継続すれば、翌年には完全に回復できるという特徴がありますので、刈取り作業の一時的な変更によって生じる草地植生の変動は大きな問題として考える必要はないと思います。

2)オーチャードグラス主体草地として維持してきた草地に、イタリアンライグラス(秋はメヒシバ・イヌビエ)、あるいは、クサヨシ(野生リードカナリーグラス)、ハイコヌカグサと思われるシバ状のイネ科草、ベルベットグラス(シラゲガヤ)、エゾノギシギシ、ヨモギ、オオアレチノギクなどが拡がって来た草地がみられます。このような草地の対応について整理しておく必要があります。

低下したオーチャードグラスの株数を増加させ収穫物中の割合をあげることは利用管理法の調整では困難です。オーチャードグラスにこだわり続けるかどうかをどこかの時点で決めざるを得ません。

大まかに分けるとこのような草地には2つのタイプがあります。

イタリアンライグラスとの競争が激しくなる(3番草はイヌビエ)

(1)1番草と2番草ではイタリアンライグラスの割合が増加し、3番草ではメヒシバやイヌビエの割合が多くなってきた草地

9月末~10月初旬に秋の最終刈取りを続けてきた草地では、急速にイタリアンライグラスが増加し、オーチャードグラスの割合が低下していきます。

最終刈取りが10月中旬になる草地の場合は、初霜を短期間で迎えるため年による秋から冬にかけての気象の変動がイタリアンの発芽・成長大きな影響を及ぼし草地の生産は安定しません。そのため、オーチャードグラスの株間に様々な雑草が侵入する草地になります。  

イタリアンライグラス優占となった草地

このような草地では、草地更新という手段を考えることなく、利用管理法をイタリアン・イヌビエ草地に適した方法に転換すれば収穫量はむしろ増加する場合が多く、その後も安定して長期間維持することができます。秋の最終刈取りを9月中に行うように利用法を変えることが要になります。

 オーチャードグラス主体草地に戻したいという場合には、土壌に残るイタリアンライグラス種子の発芽成長を抑える手法を取り入れた耕起法による草地更新を実施する他はありません。簡易草地更新機による更新は翌年にはイタリアンライグラス優占の草地に戻ってしまいます。更新後の管理は、イタリアンライグラスの侵入を抑制する秋の最終刈取りの実施、石灰質肥料の適切な施用による土壌酸性化の防止を心がける必要があります。

オーチャードグラスの株間に多年生雑草が侵入してきた

(2)イタリアンライグラスの侵入は見られないが、オーチャードグラスの株化が進み、株間を様々な雑草が埋めている草地
 このような草地の場合は、オーチャードグラスの割合が急速に低下することはありませんが、シバ型の草種(ヌカボの仲間など)の勢力が増加すると草地の収量は次第に低下していきます。収穫量を上げるためには、草地更新を行ってオーチャードグラスの密度を回復する手段をとることになります。この目的で行う草地更新においては、オーチャードグラスの発芽成長に適した土壌環境を整えるために事業の実施時期、工程などを慎重に検討する必要があります。なお、このような草地については簡易草地更新機の利用も十分可能です。

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