2021年7月6日~7月7日に第2回草地調査を行いました。今年の第1回刈取りは5月の晴天が続かなかったために、ほとんどの牧場で例年より遅くなったようです。
1)5月の梅雨入り前の晴天が持続しなかったために、1番草の刈り取りがやや遅れた牧野が多かったようです。イタリアンライグラスが主体の草地で、刈り取りが遅れた所では倒伏が多く、刈り残しが多量に発生し、減収傾向が見られました。特に堆肥を多く入れた草地ではイタリアンライグラスの成長が旺盛で倒伏が進んで減収が大きい草地がありました。倒伏には天候の影響が大きく、年によってその発生程度は異なるため明確な指針を立てることは困難ですが、堆肥を多く入れた草地については、堆肥施用量を勘案して春肥の窒素量の節減を考える必要もありそうです。
2)堆肥の散布による生育むらが1番草で目立った草地があり、収穫量にも影響したようです。ただし、今年の1番刈りが減収した草地の場合、その主な原因は1)で述べた倒伏による減収が大きかったといえます。
堆肥の散布作業で生じたイタリアンライグラスの株間の裸地にはイヌビエが大きく成長しており、また、堆肥が積まれたために欠株が生じていた部分もイヌビエ、メヒシバが十分に成長しています。2番刈りは十分な収量があると思われます。 今年発生したこのようなイタリアンライグラス欠株部分は、来年以降の草地には何ら悪い影響も残さないと考えられます。面積的にかなり多いために追播も考えたくなりますが、2番草の生育中や収穫作業中にかなりの量の種子がこのような部分にも散布されますので自然に回復させるのが経済的だと考えます。市販種子を播いても現在生育しているイタリアンライグラスと違って永続性はないでしょう。
3)エゾノギシギシの増減については注意して見ておくことが必要ですが、ギシギシの発生、増加の原因を探ることがまず大切です。草地の土壌のどこにでもエゾノギシギシ種子が埋もれており、発芽の機会をねらっています。光が土壌表面に当たるのをできるだけ避けることができる草地の状態を維持することが基本対策です。ギシギシの発芽機会を少なくし、幼苗の成長を抑圧できるように牧草の密度を維持し、裸地部分をできるだけ少なくすることが第一です。裸地が多く発生するような草地では防除作業によって減少させることができても、すぐ新しい個体が発芽、成長してきます。防除作業を行うかどうかの判断は個体数の推移と株の肥大化による周囲の植生の減少程度の目途をもって(例えば10%の減収が予測される)防除計画を作成するようにします。写真の様なイタリアン主体草地の場合、この程度のエゾノギシギシの量はまだ防除を考える必要はないように思います。
4)オーチャードグラス株が維持されている草地の場合、2番刈り後の夏枯れの発生に注意してください。温暖化が進んで牧草の夏枯れ問題は改めて対策を検討しておく必要があります。特に梅雨明けが遅れて、刈取り後の再生時期が最も気温が高くなる時期(8月初旬)になってしまう場合には夏枯れ発生が多いのではないかと考えています。各牧野で注意して観察してください。対策としては、2番刈り後の追肥は、窒素の施用量を控える必要があります。刈取り後の成長では新しい根を伸ばして養分や水を吸収しますので、土壌の酸性化によるアルミニウムによる根系の成長障害を起こさせないように土壌改良に努めることも重要です。
5)牧草の割合が大きく減少した草地について 牧草(自生イタリアンライグラスを含めて)の割合が大きく減少している草地がいくつかあります。詳細にみれば原因は草地によって異なりますが、共通しているのは、刈取りができなかったことがあった、土壌の酸性化が顕著になっているなどをあげることができます。草地生産に対する要求が強い場合には更新を考えることも必要ですが、カモジグサやヌカボ、ベルベットグラスが主体になった草地でも飼料源としては十分な所もありますし、草地の維持管理にかける労力が足りない組合も増えていますし、家畜生産に必要な飼料における牧野生産飼料の需要が変化している経営もあります。このような牧野組合については、草地に期待する役割を明確にした上で対応を考える必要があります。草地のあり方には模範解答はありません。状況に応じて自由に考えていきましょう。草地として維持されているだけで地域にとって大きな意義を果たしている所もあります。今の草地を草地として維持し続けることがこれからの畜産のあり方を考えるうえで可能性を拡げます。国としての支援、地域の行政による具体的な様々な支援(牧野の組合外への契約利用、生産飼料の流通斡旋や事業化、コントラクターなどの機械利用組織、牧野利用・維持管理への援助組織)の検討が望まれます。