久住 牧野の博物館

2019年第3回草地調査

I牧野
 2番刈りがやや遅くなったと思われ、既にイタリアンライグラスの発芽が多数見られます。9月は未だメヒシバやイヌビエの成長が盛んなため発芽したイタリアンライグラスがメヒシバ、イヌビエに被圧されて枯死する個体が多数発生する可能性があります。来年の1番草の主体になるイタリアンライグラスの密度が不足する恐れがありますが、夏を越したイタリアンライグラスの株もかなり多く、これらが来年の収穫の主体になると思われます。したがって、越夏イタリアンライグラス株の充実と春の成長を十分保証するために、3月初旬の春肥が重要です。焼却灰や堆肥による土壌改良により、酸性土壌に適応したヌカボの勢いが弱まっています。今後も焼却灰等の利用を計画してください。

C牧野
 イヌビエの成長は順調で、9月中に刈り取りができれば来春のイタリアンライグラスも確実に収穫することができると思われます。今後も堆肥の利用を計画されるのであれば、土壌の酸性化による収穫量への影響はない状態で維持することは可能です。しかし、土壌分析の結果を見ながら、リン酸の補給は考えておく必要はあります。堆肥の施用による肥料の節約と3番草への施肥を減らすことにより、節約した分をリン酸肥料として3番刈り取り後のお礼肥あるいは春肥として施用することを計画してください。

T牧野
 一昨年秋に更新した草地は、現在ではほぼイタリアンライグラスが優勢になっています。このような状態になった草地の場合は、1番草でしっかりイタリアンライグラスで収量あげることが重要です。そのためには、3月初中旬の春肥の施用と3番刈りを9月中に終わらせることが必要です。3番草はイヌビエあるいはメヒシバで収穫することで割り切る必要があります。また、残存するオーチャードグラスも土壌が未だ酸性に傾いているためにリン酸欠乏症状が出ています。機械庫横の草地は更新時に播種したオーチャードグラスはほぼ消えて、更新前にあったイタリアンライグラスが優勢になっています。今後はアカクローバの増加に十分留意してください。アカクローバの割合が増えてくるようであれば再度の更新を考える必要もあると思われます。

NK牧野
 刈り取りが確実に実施できているので、オーチャードグラス、トールフェスクなどの株は残っています。今後は毎年の収穫量をどの程度期待するかを想定したうえで、必要であれば3月初中旬の施肥と刈り取り後の追肥量を増やすことで調整してください。ただし、より多くの収穫量を目指すために施肥量を多くしすぎると、オーチャードグラスおよびトールフェスクの株間に侵入している野草が勢いを増し、雑草量も増えてくることを想定しておく必要があります。ヨモギやワラビなどの勢力拡大を抑えるためには、石灰質肥料とリン酸肥料を最終刈り取り後に施用することが有効だと思われます。

NS牧野
 ワルナスビは、地中の株からの出芽および既に落下し地中にある種子からの発芽個体によって、密度がかなり増加しています。既に種子を着けており、多数の種子が草地内に散布される可能性が高く、年ごとに株数は急速に増加する危険が高くなっています。このような状態になっているために、今後の草地利用管理の方針は、ワルナスビが牧野内の他の草地に広がることを避け、他の牧野に拡散することがないように防止することが中心になります。オーチャードグラスの密度もまだかなり高く維持されていますが、収穫量が十分ではなくてもワルナスビが種子を着ける前に刈り取る、また、ワルナスビの発芽・出芽時に牧草で被圧する効果を期待するために一番草の刈り取りを少し遅くするなどの工夫を続ける必要があります。そのうえで、今後の抑制方法、更新の必要性などの対応策を検討しましょう。

Y牧野
 機械庫横の草地の更新作業は終了していたと思われます。今後の順調な牧草の成長を期待したいと思います。留意しておきたいことは、元の草地の主な草種はイタリアンライグラスであった点で、更新作業においてイタリアンライグラスの発芽、成長を抑制するための手段が取られたものと推察しますが、地中のイタリアンライグラス種子を全て枯殺することは困難であり、発芽するとオーチャードグラスより初期成長が早いために、来年春にはイタリアンライグラスが目立つ状態になることは避けられないと予想されます。オーチャードグラス主体草地として確立するためには、3番刈りの時期を現在より遅くし、イタリアンライグラスの発芽に最適な時期を外して10月中旬以降にすることを推奨します。また、更新後のオーチャードグラスの成長を観察し、下葉の枯死・褐色化が見られるようであれば、石灰質資材とリン酸資材の補給を計画する必要があるかもしれません。この点については来年の1番草調査の結果を見て報告します。

IM牧野
 自然に落ちたイタリアンライグラスの種子が土壌にあることから、適切な管理が行われるならば、1番草はイタリアンライグラスが主体の草地に回復することは可能です。このためには、イタリアンライグラスの発芽時期である9月末にはメヒシバやイヌビエでおおわれている草地の刈払いが不可欠です。また、土壌の酸性化がかなり進み、土壌のアルミの害やリン酸欠乏のために、根が極端に浅くなっているので、堆肥の施用や石灰・リン酸資材の施用が必要です。このまま自然回復を待つか、全面耕起により更新するか、あるいは条播機による簡易更新をするか、にかかわらず、土壌改良が必要です。

O牧野
 安定したリードカナリーグラス主体草地で、雑草の侵入も少なく、刈り取り時期の柔軟性も発揮されているようです。散布作業が可能な場合には苦土石灰の施用により、栄養的にもより優れた飼料草が収穫できるものと思います。

IS牧野
 草地の主な草がオーチャードグラスからイタリアンライグラスになっているので、1番草と2番草はイタリアンライグラス、3番草はメヒシバあるいはイヌビエとなります。1番草でイタリアンライグラスを確実に収穫することが、この場合最も重要です。そのためには、春肥を重点に施肥を行うことと、3番草の9月中の刈り取りがポイントになります。今後、3番草の刈り取り時期を確実にすることと春施肥作業を重点にして草地管理の省力化と肥料の節約を図ることが望ましいと思います。苦土石灰の施用効果を今後の草地調査や土壌分析で確認していきたいと思います。

U牧野
昨年の3番草はオーチャードグラスの割合がかなり減少していましたが、今年はオーチャードグラスの回復が見られました。堆肥の施用効果が出たものと思われます。3番草刈り取り時期が例年では10月に入っていましたが、今後も10月中旬以降の刈り取りがオーチャードグラスの維持に有効だと思います。土壌分析の結果によっては、リン酸の追肥が今後必要になるかもしれません。
 
TK牧野
 3番草のオーチャードグラスも土壌改良材や堆肥の施用によりほぼ順調に生育しています。しかし、表土がかなり薄く、酸性が強い火山灰土壌特有の性質が出やすい傾向がある草地ですので、今後とも土壌分析を参考にして石灰資材の計画的施用を実施してください。堆肥施用効果は明らかにありますが、マイナスの影響としてイヌビエやメヒシバをはじめ種々の雑草が株間に侵入することが避けられないと思いますので、今後の雑草の動向に十分気を付けておく必要があります。今後の草地調査でもこの点を注意して観察したいと思います。

A牧野
 オーチャードグラスとトールフェスクの株がかなり少なくなったため、草地の収穫草として今後は1番草と2番草はイタリアンライグラス、3番草はメヒシバ・イヌビエになります。1番草のイタリアンライグラスの成長を旺盛にすることがこのタイプの草地で多収をあげるポイントです。そのためには、今年の1番草のようにイタリアンライグラスがほぼ全て消えてしまう事態は絶対に避けなければなりません。イタリアンライグラスが消えた原因として考えられるのは、昨年の3番草刈り取り時期がやや遅くなった可能性があります。この草地の標高はおよそ1000mあり、刈り取りが10月に入ると気温の低下でイタリアンライグラスの発芽が阻害される危険が高まります。また、土壌の酸性化がかなり進んでいるために、土壌中のアルミニウムの害で発芽したイタリアンライグラスの根が十分伸びることができず、霜や低温の影響を受けてほとんどの個体が枯死したことも原因です。今後の対応としては、9月中の刈り取りを確実に行うことと、土壌酸性の改良が必要です。

S牧野
草地の刈り取りが済んだことは、今後の草地の維持には大変良い影響を与えると思います。3番草の主な草種は野生リードカナリーグラス、レッドトップが主で、ベルベットグラスはあまり目立たない状態です。しかし、来年の1番草はやはりベルベットグラスが優勢になると思われます。毎年必ず刈り取り作業を行うことで雑木の侵入を抑え、草地としての機能は維持することができます。可能であれば、年2回の刈り取りを実施すると、餌としての栄養や牛の食い込みも向上すると思われます。

IK牧野
牧草の成長は思わしくなく、エノコログサが優勢になっています。作業コストの割に収量はあまり上がらない状態です。これは、鹿による食害やイノシシによる草地表面土壌の掘削などの被害が大きな原因になっています。収量が低下するだけではなく管理作業も困難となっています。どの程度の収穫量を期待するかによりますが、現状では年1回確実に収穫をあげるような利用法を考える必要もあると思います。草地利用管理作業が営農全体に悪影響が及ばないような方法で草地利用管理が継続可能かどうか慎重に検討してみる必要もあると考えます。

G牧野
主体になる草はほぼエノコログサになっており、牧草はトールフェスクが混じる程度になっています。鹿の食害がひどく、肥料にかかる費用、作業コストに見合う収穫量が得られるかどうか微妙な状態です。年2回の利用が可能であれば、トールフェスクを維持する可能性もあります。年1回の利用では様々な野草の侵入が徐々に進んでいくと思われますが、経営全体における草地の位置付けを考え、営農に無理が生じない草地の利用法を工夫せざるを得ないと思います。

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