久住 牧野の博物館

2017年第3回草地調査

調査日9月14,15日

発芽が始まったイタリアンライグラス

 今年の7および8月の降水量は、7月下旬に平年よりやや多く、8月上旬が平年並みとなった他は、少ない傾向が続きました。また、気温は夏中を通して平年より高い傾向がありました。
7月の天気推移から中旬までに2番草刈取りが終わった草地と、8月にずれ込んだ草地がありました。このため3番草の成長も草地によって違いが大きく、調査日までにすでに刈り取りが終わった草地もありました。
① イタリアンライグラスの状況
 2016年に最終刈取りが遅くなった草地が多かったことから、今年は晩生系イタリアンライグラスの割合が増加する可能性があると指摘していました。しかし、高標高の草地でもイタリアンライグラスの割合は例年より低下していました。これは今夏の高温傾向と8月の少雨傾向がイタリアンライグラスの越夏を妨げたのではないかと推測しています。越夏性イタリアンライグラスの秋の下種の可能性は低くなりますが、来年の1番草におけるイタリアンライグラスの成長には大きな影響は生じないと考えます。


② オーチャードグラスの状況
 この3年の経過をみると、多くの更新草地でオーチャードグラスの割合は低下傾向が続いています。今年はオーチャードグラスの被度の低下がなく、他の草種と比較して成長の勢いが強いと感じられる草地が3か所認められました。これらの草地では今年の冬から春に堆肥を散布したようです。
 酸性土壌におけるアルミニウム害が成長に及ぼす影響は、オーチャードグラスで大きく、次いでトールフェスク、イタリアンライグラスの順であり、ベルベットグラスは耐性が高いという報告があります。草地の土壌の状態が草種の優劣の推移に関連している可能性が高く、堆肥によるアルミニウム害の軽減がオーチャードグラスの成長にプラスに働いたのではないかと考えられます。

堆肥を入れた草地のオーチャードグラスとトールフェスク


③ トールフェスクの状況
 トールフェスクの割合は、2015年から増加した草地4か所(10草地中)、減少した草地4か所でした。トールフェスクの割合はオーチャードグラスの減少とともに次第に増加する傾向が顕著でしたが、今回はオーチャードグラスが増加した草地では減少が認められました。

 
④ イタリアンライグラスと夏型1年生イネ科草との交代草地におけるメヒシバおよびイヌビエ割合の推移

メヒシバがイヌビエより優占した草地

毎年1番草および2番草はイタリアンライグラス、3番草はメヒシバあるいはイヌビエとなる草地において、3番草でイヌビエになるかメヒシバが優勢に    なるかがどのような要因によって決まるかは、まだ明らかではありません。今のところ、2番草刈り取りの時期が早い場合(7月初旬)には、イヌビエ    が多くなる傾向があることが観察されています。イヌビエよりメヒシバの割合が高かった草地が8か所、逆が2草地で、昨年よりイヌビエが減少したの   が5草地、メヒシバが増加したのが4草地となりました。

⑤ 昨年秋更新した草地の状況
 オーチャードの割合が非常に少なくなっています。この草地については土壌のアルミニウム害による草種構成の変化が起こったというより、更新前に優勢であったイタリアンライグラスの復活が原因です。この場合、土壌中にあったイタリアンライグラス種子が発芽したことによるものと考えられます。ただし、この草地のイタリアンライグラスはフェスクとの交雑種であった可能性があり、ほとんどの株が越夏しているようです。このような草地の更新法とその後の管理については今後検討の必要があります。 

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